仕事柄、出張で各地のホテルに泊まることがある。
不思議と落ち着く部屋と嫌な感じのする部屋があって、後者の場合は、壁に飾られた額縁の裏にお札でも貼ってあるのではないかと、裏返して見ることもある。

東京のあるビジネスホテルなのだが、部屋に入ると嫌な感じがする。
窓のカーテンを開けると、窓から見える風景は、ホテルに囲まれた無機質な空間である。このホテルは内側を囲むような構造で、なんとなく、その囲まれた空間がよどんでいるような感じがした。
どうも、落ち着かないので壁に飾ってある額を動かそうとすると壁にきっちりと固定され動かない。特別に霊感が強いわけでも無く、幽霊を見たわけでもないが、この部屋は寝苦しかった。

まだ、大学生の頃、民家の2階に部屋を借りていた。2階への階段は家の外につけられていたから、そこを利用して出入りできた。アパートと同じような構造であった。

その部屋で、一度だけ、幽霊を見たように思った。部屋は二部屋あって、その奥の部屋で寝ていたのだが、暗い部屋で全体の部屋の様子はぼんやりと見えていた。誰かが近寄ってくる気配がして、ふと、横を見ると。赤く髪を染めた水商売風の女が立っていた。

女の服や顔立ちまで見えたが、まったく、記憶にない。女はしばらく僕をながめてた。1分ほどだろうか。すると、踵を返して玄関の部屋の方へ立ち去っていった。その後、僕は今のは何だろうかよいう気持ちだったが、我に返って、その女の方を追ってみた。しかし、すでに、その影も形もなかった。2階への階段は金属製なので、足音くらいするものなのだが。

これが、幽霊なのか、それとも現実の女なのかわからない。以前住んでいいた男友達の部屋に立ち寄ったのかもしれない。ただ、その顔つきには、喜びよりも悲しみの方が色濃く出ていたように感じていた。