ノスタルジア  タルコフスキー

ドメニコの詩

語りかけるのは誰か
私の頭脳と肉体は
同時には生きられない
だから一個の人格にはなりえない
私は同時に無限のものを
感じることができる

我々の時代の不幸は
偉大な人間になれないことだ
我々の心は
影におおわれている
無意味と思えることにも
耳をかたむけよう
たとえば排水溝のことや
学校の壁やアスファルト
奉仕活動や忙しい人や
虫の声にも耳をかそう
我々の視覚と聴覚
そのすべてで感じることが
我々の大いなる夢の
始まりとなるのだ

だれかが叫ぶべきだ
ピラミッドを
つくろうではないか
重要なのは完成することではない
願い持続することなのだ

われわれはあらゆる意味で
魂を広げるべきだ
まるで無限に広がる
シーツのように

もし君たちが
進歩を望むのなら
一つに混じり合うことだ
健全な人も
病める人も
手を取り合うのだ

健全な人よ
あなたの健全さが何になる
人類すべてが
崖ぷちにいる
顛落の運命にある

それを直視し
ともに食べ
眠る勇気がないのなら
我々にとって
自由は何の役にも立たない
いわゆる健全な人々が
世界を動かし
破滅に直面する

人間よ
従うのだ
君の中の水に
火に
そして灰に
灰の中の骨に
骨と
灰だ

私はどこに
存在するのだろう
現実にも空想にも
存在しない

太陽が夜中に昇り
夏に雪が降れば
強者が滅びて
弱者が生き延びるだろう

混とんとした世界を
統一するのだ
自然を観察すれば
人生は単純だとわかる
原点へ戻ろうではないか
単純な原点に
道を間違えた場所まで
戻るのだ
水を汚すこともなく
根源的な生活へ戻ろう

愚かな人間よ
君たちがさげすむ
愚かな者から
恥を知れ と
ののしられる

母よ 母よ
風は軽いものだ
微笑めば風はそよぐ
そして
あなたを優しく包み込む