劣化ウラン弾の「矛盾」

数日前から気になりながら、忙しさにかまけて書けなかったことを書いてみる。[劣化ウラン研究会]に山崎八九生氏が寄稿した「劣化ウラン弾概説」というものがある。
http://www.jca.apc.org/DUCJ/siryo/yakuo.html

戦車の装甲を貫通させる砲弾には、剛性と質量の大きい(=硬くて重い)物質をできるだけ高速で衝突させる運動エネルギー弾と、バズーカ砲の様に炸薬の爆発エネルギーを利用した化学エネルギー弾(一部の文献に、爆発時に生じる高熱によって装甲を溶かすとの記述があるが、これは誤解である。あくまで集束された爆風の衝撃力でもってせんこう穿孔《穴を開けるの意》するのである)に大別されるが、劣化ウラン弾は前者に該当する。

との記述がある。
一方、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法特別委員会において藤田祐幸氏が「参考人意見陳述」をしている。
http://www.jca.apc.org/DUCJ/siryo/sanko-fujita030701.html
その一部分を引用する。

物理的特性として、重く、硬い金属であり、廃棄物であるがゆえに極めて安価である、という利点から、米・英軍の対戦車砲の砲弾として利用されております。高速で打ち出されたウラン金属が戦車の鋼鉄版に当たりますと、衝撃力のためウラン金属は高温で発火し、鉄板を溶かし、内部で激しく燃焼し、搭乗員を焼き殺すことができます。そのとき、数ミクロンの微粒子になったウラン粉末が環境に噴き出し、これを吸い込みますと肺に沈着して重篤放射線障害を引き起こすことが知られています。

山崎氏の説明では、劣化ウラン弾は「高速で衝突させる運動エネルギー弾」という説明がある。僕は劣化ウランの特性からしても、この運動エネルギー弾という説明には納得がいくものである。比重が極めて大きく硬い金属であれば、コンパクトでありながら運動エネルギーによる破壊力は相当なものになる。

ところが藤田氏の説明では、「高速で打ち出されたウラン金属が戦車の鋼鉄版に当たりますと、衝撃力のためウラン金属は高温で発火し、鉄板を溶かし、内部で激しく燃焼し、搭乗員を焼き殺すことができます。」とある。
山崎氏の論文をさらに引用すると

劣化ウランを用いた砲弾は、それまでのタングステンを素材にしたものと比べ、比重が大きい(=密度が高い)ため、貫通効果が1割程向上する。しかも、命中時の摩擦熱により、1100度以上になると発火するため、しょうい焼夷効果による乗員の殺傷や砲塔内の砲弾の誘爆が期待できる。その上、タングステン製よりも遥かに安い。

とある。

山崎氏によれば発火原因は「摩擦熱」とある。僕はこの山崎氏言う「摩擦熱」が劣化ウランの発火の説明として正しいように思う。さらに、藤田氏は「鉄板を溶かし」とあるが、これは根本的な間違いではないだろうか。僕が山崎氏の説明で思い浮かべる劣化ウラン弾のタンクなどの装甲破壊のメカニズムは、比重の大きい劣化ウラン弾の強大な運動エネルギーが一点に集中し、装甲を力学的に破壊し、その後、装甲を劣化ウラン弾が突き破る時の摩擦熱によって劣化ウランが発火するものである。

つまり、装甲を突き破る結果として発火するもので、藤田氏が述べている「鉄板を溶かす」という化学エネルギー弾のイメージがわいてこない。山崎氏が「一部の文献に、爆発時に生じる高熱によって装甲を溶かすとの記述があるが、これは誤解である。」と書いているが、藤田氏もこのような間違った記述をそのまま適用したのではなかろうか。

どこかのサイトに矛盾のような話があった。劣化ウラン弾劣化ウランで補強した装甲に打ち込んだらどうなるか?
強大な運動エネルギーをもつ劣化ウラン弾(矛)が硬くて丈夫な劣化ウランの装甲(盾)にぶち当たったらどうなるかということである。

そのサイトでは、劣化ウラン弾が装甲を突き破ると書いてあった。最近、劣化ウランに関するサイトをたくさん覗きすぎて、どこに書いてあったか忘れてしまった。

愛・蔵太氏の「愛・蔵太氏の気まま日記」の2004年1月25日に藤田氏への質問と回答が掲載されているので読んでもらいたい。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/