クリスマス・テロル  佐藤友哉

熊谷尚人は演説する。

僕は世界に飽き飽きしてるんだよ・・・・。いや違うな、絶望・・・・そうじゃない、そう、失望してるんだ。新しくて革新的で斬新なものを望んでいるようなことを云っている癖に、結局手にするものは、ありふれた既存のものばかりの、このしみったれた世界にね。

もちろん、小林冬子によって「最低レベルの演説ですね」と酷評されるわけである。
島という閉鎖空間において、そこでの共同幻想的空虚の集約が役にたたない詩人の熊谷尚人である。それは、あえて、「それは」であるが、記憶障害の一心岬によってしか見いだされない。その皮肉は、まさに、小林冬子によって透明化される事実でさらに対比される。
まさに、クリスマス・テロルによって、その生存の根拠さえも消滅されるのである。テロルは生ある人間を殺すことではなく、生きた証を抹消することである。