劣化ウラン問題とアメリカの主張

在日米国大使館のWEBサイトを見ていて、主要な政策課題の中に「劣化ウラン問題」があり、興味深く読んだ。それ以後2日間ほど劣化ウランに関するサイトをいくつか見てみて、さらに興味をそそられた。

劣化ウラン」に関連して、「劣化ウランは小さな核兵器」だと即時使用停止を求めるグループと、「この問題を誇張するのは、イラクとそれをとりまく反核団体プロパガンダ」だと糾弾するグループの2つが対立していることである。僕は、そのどちらのグループの主張にも耳を傾けた。

まずは、在日米国大使館のWEBサイトの主張である。http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20031006d1.html
ここでは劣化ウランを次のように述べている。

劣化ウランとは
劣化ウランは、天然ウラン鉱を原子炉や核兵器に使用するために濃縮する際に残る副産物である。有毒で高密度の超硬金属である。
・濃縮プロセスの過程で、ウランに含まれるより放射性の強いアイソトープの大部分が取り除かれるために、「残された」劣化ウランの放射性はウランより約40%弱い。
劣化ウラン放射線は、われわれが日常的に受けているバックグラウンド放射線(自然界に偏在している微量の放射線)と大きな違いはない。劣化ウランの放射性は弱い。例えば、多くの古い夜光腕時計にいまだに使われているラジウムの300万分の1、また火災検知器に用いられているものの1000万分の1に過ぎない。
・超高密度であることに加えて他の物理的特性を有するため、劣化ウランは、戦車の分厚い装甲を貫通する弾丸や、防御用の装甲保護に軍事利用する上で理想的なものである。劣化ウランは、核兵器ではない。

要約すると、「劣化ウラン放射線は日常の生活レベルであり問題はない。超高密度で、軍事的な有効にりようできる」ということだろう。

劣化ウランの健康上の問題は次のように述べている。

劣化ウランは健康に有害か
劣化ウランの被ばくと、がんやその他の重大な健康上あるいは環境上の影響の増大との関連を、信頼できる科学的証拠に基づいて証明するものは存在しない。
劣化ウラン被ばくに関する最も信頼できる調査は、除去不可能な劣化ウランの破片が体内に残っている湾岸戦争の復員兵に関するものである。これまでのところ、ウランの化学的毒性あるいは放射能毒性による健康異常をきたした復員兵はひとりもいない。
劣化ウランが健康を害する主要因は化学的毒性ではなく放射能である、という誤解が多く見られる。他の重金属と同様、劣化ウランは、潜在的に有毒である。劣化ウランを飲み込んだり、吸い込んだりした場合、量が多ければ、化学的毒性の故に有害である。高濃度の場合には、腎臓障害を引き起こす可能性がある。
世界保健機関(WHO)によると、放射能毒性が肺がんを引き起こすのは、極めて多量の劣化ウランの粉じんを吸入した場合である。白血病など、放射線が誘発する他のがんのリスクは、かなり低いと考えられている。

ここの部分では、「信頼できる」、「もっとも信頼できる」など、科学的資料をアメリカの都合で選択した(自分の都合のいいものだけをとりあげた)感じがいなめない。「健康異常をきたした復員兵はひとりもいない」ということに対して、他のサイトではそうではないことがとりあげられていた。劣化ウランの化学的有毒性については認めている。劣化ウラン放射線がガンを誘発するかは「リスクは、かなり低い」というあいまいな表現である。逆の見方をすると、劣化ウランがガンを誘発することもあるということだろう。「劣化ウランは健康に有害か」という表題だが、ここでは、総合的に有害とも、無害とも書いてない。放射線としては無害であるが、化学毒性として有害ということだろう。

湾岸戦争の帰還兵の問題では、次のサイトが詳しい。
人類に対する犯罪−湾岸戦争でのウラン弾による健康被害…「シュピーゲル」誌一月十五日号から
http://village.infoweb.ne.jp/~shinikyo/urandan.html
R:物理学者で元アメリカ陸軍の専門家だったダウグ・ロッケDoug Rokke
S:シュピーゲル

 S:今年の一月三日の当局の発表では、ウランが原因の病気で治療を受けている帰還将兵は六三人しかいません。
 R:それは当然のことなのです。ペンタゴンは広範囲にわたる医学的検査の実行を妨げ、ひきのばしているので、ウラン弾からの放射線に被曝した帰還将兵の健康が損われているという証拠が出てこないのです。国防省は今日に至るまでウラン弾による健康被害があるということを認めていないのです。
 S:そのことについて科学的に確かな証明はできるのですか?
 R:この関連の存在を示唆している間接的な証拠は全く豊富にあるのです。
 S:一九九一年に湾岸に行ったあなたのチームからも後に健康を損ねた人が出たのですか?
 R:後になってどころか、呼吸具と防護衣を着用していたにもかかわらず私たちのチーム員は一週間もたたないうちに罹病したのです。私たちは皮膚に発疹したり、呼吸が苦しくなったりしました。その後で腎臓の不調があらわれ、八〜九ヵ月後には最初の癌患者が、二〜三年後には最初の死者が出たのです。
 S:これまでに亡くなった方はその人一人ではないのですか?
 R:そうです。約一〇〇人が放射性物件の処理に直接かかわり、その過半が罹病しました。私も呼吸不全になりました。医師は私が「ウラン粉塵吸入に起因する肺障害だ」と証明してくれました。先週も私たちは放射性物件の輸送に当った友人の一人の埋葬に参列しましたが、これでこの仕事に当った人びとのうち20人が亡くなったのです。

このダウグ・ロッケ氏のインタビューは、アメリカの見解である「これまでのところ、ウランの化学的毒性あるいは放射能毒性による健康異常をきたした復員兵はひとりもいない。」と対立する。アメリカの言い分としては、イラク化学兵器による複合汚染説をとるのかもしれないが、判然としない。

「衝撃と畏怖」:ペンタゴンの灼熱地獄戦争
http://www.jca.apc.org/mihama/d_uran/moret030310.htm
というページでは、カリフォルニア州バークレー市の環境委員のルーレン・モレ氏が次のように述べている。

ロッキ博士と彼の軍事専門家チームが劣化ウラン弾でエイブラムス戦車を爆破し、戦車周辺の放射能を研究するためにネバダ実験場に送られた。このチームは、劣化ウラン塵からの防護としてマスクのついた「モップ・スーツ」を支給された。このエア・フィルターが微粒子には機能しない−超微粒子はマスクのフィルターを通りぬけて肺に入る−ことを彼らは知らなかったし、エネルギー省は彼らに知らせなかった。最良のHEPAフィルターを使った場合、24時間で、直径0.1ミクロンの粒子が2800万個が肺に入る4。最終的にはその期間に、その大きさの10億個の微粒子が吸引されたであろうダグ・ロッキの白内障や腎臓障害は湾岸戦争症候群の典型的なものである。1月に、1週間の講演ツアーで私たちが行動をともにした。私は彼が息苦しそうで、ひじょうに疲れやすいことに気づいた。彼は、指の感覚がなく、関節にひどい痛みがあると訴えた。

カナダの湾岸戦争帰還兵で、公式には1999年に湾岸戦争症候群によって亡くなったテリー・ライオデン隊長が、彼の体を調査に提供した。彼が戦争に行く前は、彼の目は赤褐色だった。目の色は、帰ってきた際に青色になり、そして灰色になり、死ぬ間際にはほとんど濁っていたと、彼の妻は私に話した。高レベルの劣化ウランが彼の骨や組織や脳から検出された。彼は骨ガンにかかっていた。彼女が夫の死について法律委員会の前に証言している間に、彼女の家は強盗に入られた。高レベルの劣化ウランが彼の体に取り込まれていることを示す彼の医療記録が盗まれた。

このことは事実だと思われるが、これが劣化ウランによるものという決定的証拠が盗まれてしまっていては、判断が難しい。アメリカの主張するイラク化学兵器による複合汚染とどのように区別するかは、臨床医による学術的な証明が必要である。

それでは、アメリカは湾岸戦争後にイラクにおいて先天性異常やガンの発生についてどのように説明しているのだろうか。在日米国大使館のWEBサイトから少し長くなるが引用する。

イラク化学兵器による医学的影響に関する事実

 国営イラク通信のウェブサイトは、モスルの町に住む少年の無残な写真にリンクを張り、次のような解説を付けている。「われわれは人権擁護派に訴える。彼らの爆弾がイラクの子どもたちに何をしたか見よ。彼らはイラクに対する侵略に、劣化ウラン弾など国際的に禁止されている武器を使用している現実を見よ」。2000年11月、イラクの「アリフ・バ」誌は、母親が劣化ウランに被ばくしたため、「2つの頭を持ち、腕も3本」ある子どもが生まれたと報道した。

 イラク各地で先天性異常やガンの発生が急増しているとするなら、それは、フセイン政権が1983年から1988年までの間にマスタードガスや神経ガスなどの化学兵器を使用したためである可能性が最も高い。サダム・フセインは、1980年から1988年まで続いたイラン・イラク戦争の際、イラク南部および北部に居住したイラン人に対し化学兵器を使用した。また、広く知られているように、北部の町ハラブジャでは、少数民族クルド人に対し化学兵器を使用した。マスタードガスがガンを引き起こすことは以前から知られており、先天性異常の原因となることも強く疑われている。

 医療遺伝学が専門のリバプール大学のクリスティーン・ゴスデン教授は、1998年、ハラブジャにおける先天性奇形や生殖能力、そしてガンに関する調査を行った。ゴスデン博士は次のように話した。「私が見た状況は、想像した以上にはるかにひどいものであった・・・。当時ハラブジャに住む人々の間では、不妊症、先天性奇形、ガン(皮膚、頭部、頸部、呼吸器系、胃腸管、乳房のガンおよび小児ガン)の発生率が、攻撃の10年後でさえも、3−4倍以上だった。白血病やリンパ球腫で死ぬ子どもたちの数が年々増え続けている。ハラブジャでは他地域に比べて、ガンの発生年齢がかなり低く、また悪性の腫瘍が多い」

 ゴスデン博士はまた、ハラブジャで訪問した病院についてこう語る。「分娩室のスタッフによると、胎児に重度の奇形が発生している妊娠が非常に多い。胎児死亡、周産期死亡に加えて、乳児死亡も非常に多い。ハリビヤの女性の間では、こうした死亡例の発生頻度が、隣接するスレイマニアに比べ4倍以上高い。化学兵器攻撃の何年も後に生まれた子どもたちの間で、遺伝性の重度の先天性奇形が見られることは、こうした化学兵器物質の影響が世代を超えて受け継がれていることを示している」

 スレイマニア大学のフアド・ババン医学部長によると、「(ハラブジャ)における先天性異常の発生率は、広島と長崎における原爆投下後の人口に占める発生率の4−5倍である。この町の死産、流産の発生率は、さらに深刻である。成人や子どもの間でも、珍しいガンや悪性のガンも、世界で最も高い率で発生している」

要約すると、イラクでの先天異常やガンの発生は、イラクのサダムフセイン政権の化学兵器がもたらしたものである。アメリカの劣化ウラン弾の使用によるものではないということである。

湾岸戦争の復員兵の問題について、異なる2つの主張がある。アメリカ政府は、復員兵に健康上の問題はないというものである。もう一つは、深刻なウランによる健康被害があるというものである。さらに、その被害がウランの化学的毒性によるものだけでなく、放射線被害もあるという主張である。

また、イラクにおける奇形児や白血病などのガンについては、アメリカ政府はイラク化学兵器を原因としている。一方で、アメリカ軍(一部のイギリス軍)による劣化ウラン弾の使用によって、これらの健康障害がひきおこされているという主張がある。

そのどちらが正しいかは、簡単には断定できないものである。ただ、劣化ウランにまつわるこれらの主張をさらに詳しくみていきたい。詳しく見ることで、少しずつ真実が見えてくるものだと考えている。