イラク「劣化ウランの脅威」に対するアメリカの対応

在日米国大使館のWEBサイトの「劣化ウラン問題」に「「欺まんの構造−サダム・フセインの情報工作とプロパガンダ」の「劣化ウランの脅威」へのリンク」というページがある。そこには、イラク劣化ウランの脅威を煽り、プロパガンダしていることをキャンペーンしている。
http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-jp0285.html#劣化ウラン

劣化ウランの脅威

 連合軍は湾岸戦争の際、その高濃度性のため理想的な武器となる劣化ウラン製の徹甲弾を使用した。イラク政府は近年、連合軍が使用した劣化ウラン弾が、イラク国内でのガンや先天性異常を引き起こす原因となってきたとの虚偽の主張を広めようとしている。イラクは、先天性の異常を持った子どもたちを写した衝撃的な写真を配布し、劣化ウランがその原因であると主張してきた。この政治的な運動には、プロパガンダとして2つの有利要素がある。

 ・一般人は、ウラニウムという言葉に恐怖を覚えるため、この虚偽の主張が比較的通じやすいものとなっている。
 ・反核活動家の国際的なネットワークが、劣化ウランの反対運動を独自に展開しており、イラクはこの組織網を利用することができた。

 しかし、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)、および欧州連合(EU)の科学者らは、劣化ウランに被ばくしても健康に影響はないとしている。

 しかし、こうした真実をもってしても、イラクの偽情報活動は止まることがない。ロンドンのアラビア語新聞「アルクッズ・アルアラビ」紙の2000年11月15日の報道によると、イラクはこの問題を追求するため、タリク・アジズ副首相の直接指揮下に「汚染の影響追跡のための中央委員会」と称する組織を設置した。同紙によれば、イラクのアブドアルワハブ・ムハマド・アルジュブリ少将を長とする、軍関係者や科学者等から成る作業グループが、データの作成や国際メディアのための視察ツアーを企画した。イラクは、劣化ウランの「悪影響」に関する国際会議を主催し、「専門家」を海外に派遣して、この問題について講演をさせている。その「専門家」の中には、イラクの「侵略的爆撃がもたらす汚染に関する委員会」の委員であるイラク人科学者モナ・カマス教授も含まれている。

ここでは、アメリカ政府は次の4つの論点で書いている。まず、第1は、劣化ウランの武器の優位性。(使うことの正当性)第2は、イラク政府が、劣化ウランを利用して、アメリカ軍がイラクの子どもたちに大きな被害を与えているというプロパガンダを行っていること。第3は、WHOをはじめ、劣化ウランに被ばくしても健康被害がないこと。第4は、それにもかかわらず、イラクは不当なプロパガンダを世界で展開していること。

第1の劣化ウランの武器としての優位性については、サイトの別の場所で次のように述べている。
http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20030404d2.html

劣化ウランはどのように、なぜ使われるのか

 劣化ウラン(DU)は、タングステン弾あるいは対戦車成形炸薬弾(HEAT)を使用するときより遠距離の敵に対し、国防総省が使うことがある。これは、DUがより高度の弾道特性を持っているためである。標的に当たると、タングステン弾は鈍化するが、DUは自身が鋭角化する特性がある。DU弾は、従来の運動エネルギー弾よりも通常25%有効射程が伸びる。

 米国軍はまた、戦車の装甲保護を強化するためにDUを使用する。注目すべき例として、2層の鋼鉄の間に挟まれたDUの1層で強化された厚い鋼鉄装甲を持つM1A1エーブラムズ・メインバトル戦車は、イラクのT72戦車3台の接近攻撃をはね返した。イラクの戦車からの砲撃3発をはね返した後、エーブラムズ戦車の乗員は、3台のイラクの戦車をそれぞれ1発のDU弾で破壊した。

 DUは高密度の物質を必要とする工業分野でも多数利用されている。その例には次のものがある。バラストや釣合いおもり、航空機の平衡制御装置、航空機の平衡・振動減衰、機械類のバラストや釣り合いおもり、ジャイロローターその他電気機械式釣り合いおもり、医療・工業用シールド、放射性薬品用輸送容器シールド、化学触媒、顔料、X線管。

ここでのアメリカの論点は、1点目に武器としてタングステンよりも優秀であること。(ここでは価格の問題は書いてない)2点目は、劣化ウランが、敵からの攻撃を防御するためにも優秀であること。3点目が、劣化ウランが工業分野でもつかわれるような日常的用途があること。ここでは書かれれていないが、ウラン235を濃縮したあとの核のゴミの利用という観点もある。優位性の述べている部分であるから、そこには、劣化ウランの欠点については書かれていない。その化学的毒性も書かれていない。

第2のイラクプロパガンダについての部分で、「一般人は、ウラニウムという言葉に恐怖を覚えるため、この虚偽の主張が比較的通じやすいものとなっている」と書かれている。これについては、ウラン(ウラン235)は原子爆弾の材料であり、強い放射線を発する物質であるという固定観念はあると思う。日本の場合は、ヒロシマナガサキ原子爆弾の被害にあった国だけに、特に強いと思われる。

また、「反核活動家の国際的なネットワークが、劣化ウランの反対運動を独自に展開しており、イラクはこの組織網を利用することができた」というのは、「反核活動家の国際的なネットワーク」というものが、どのネットワーク(団体)を指すのか不明であり検証できない。いくつかのサイトを見ると、劣化ウランに対する表現に誇張があったり、時にはプロパガンダを全面にだしたり、日本語訳時点(かもしれない)での故意性を感じたり、感情に訴えることで科学的事実を曲げていると感じるサイトがある。ただ、「反核活動家の国際的なネットワーク」が全て悪であるという風に感じとられる表現のように思う。これらのネットワークについては、劣化ウランの問題とそれ以外の核に関する問題を総合的に判断する必要があり、同時に、それぞれの団体を個別に検証することが大切だと考える。

第3のWHOをはじめ、劣化ウラン健康被害を否定していることについては、アメリカ政府のプロパガンダを感じる。ここにあげられている世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)、および欧州連合(EU)について個々の見解を調べることについては個人的な限界がある。前回も引用したが、在日米国大使館のサイトの「劣化ウランは健康に有害か」に次のような部分がある。

劣化ウランは健康に有害か
 ・劣化ウランが健康を害する主要因は化学的毒性ではなく放射能である、という誤解が多く見られる。他の重金属と同様、劣化ウランは、潜在的に有毒である。劣化ウランを飲み込んだり、吸い込んだりした場合、量が多ければ、化学的毒性の故に有害である。高濃度の場合には、腎臓障害を引き起こす可能性がある。
 ・世界保健機関(WHO)によると、放射能毒性が肺がんを引き起こすのは、極めて多量の劣化ウランの粉じんを吸入した場合である。白血病など、放射線が誘発する他のがんのリスクは、かなり低いと考えられている。

アメリカ政府は、「量が多ければ」とことわりながら、劣化ウランの化学的毒性を認めている。さらに、「極めて多量の」と限定して、−極めて多量という基準を示さない表現は、主観的ととらえられてもいたしかたないが−その放射線による肺がんを引き起こすとしている。

ここからすると、「世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)、および欧州連合(EU)の科学者らは、劣化ウランに被ばくしても健康に影響はないとしている。」という同サイトでの表現と矛盾を感じる。アメリカ政府の主張は、劣化ウラン弾によっては、「劣化ウランに被ばくしても健康に影響はないとしている」ということだろうが、この点での因果関係の立証や臨床的観察が十分になされなくてはならないと考える。

第4の「それにもかかわらず、イラクは不当なプロパガンダを世界で展開していること」については、アメリカとイラクが逆の立場であれば、アメリカも劣化ウラン(弾)についての『汚染の影響追跡のための中央委員会』のような組織を編成すると思う。それ自体は自然なことであろう。日本は特別な委員会は設置しなかったが、鳥島における在冲米軍による劣化ウラン弾誤射事件の時、鳥島での環境調査を行っている。結果は、イラクにすれば、アメリカよりのプロパガンダかもしれないが、それでも、自国で劣化ウラン弾が使用されたのであれば、特別委員会を設置し、その影響を調べるのは当然なことだと考える。この『汚染の影響追跡のための中央委員会』なる組織が果たした役割については、調べてみたがわからなかった。