劣化ウラン弾

藤田祐幸氏の「参考人意見陳述書」について、「劣化ウラン研究会」のWEBサイトにとりあげらられているものは、2003年7月1日の国会での意見陳述とは異なることを書いたが、今回はさらに詳しく検証してみる。

劣化ウラン研究会」のWEBサイトの「参考人意見陳述書」なるものは、基本的に国会での実際の藤田祐幸氏の意見陳述の簡略化の様式をとりながら、いくつかの大きな付加部分がある。この付加部分がどのようであるものかを明らかにしながら、この付加の意図をさぐってみる。付加部分が顕著な個所について、まず、国会での意見陳述部分を示し、それに対応する部分を検証する。


第1点
国会意見陳述の部分

この砲弾は機関砲で撃ち出されます。戦車の周辺で撃ち出されますけれども、戦車に当たるのは一発か二発で、大部分のものはそのまま地面に突き刺さります。私がコソボで確認をしたケースで見ますと、地面に突き刺さったウラン弾は、地下一・五ないし二メートルという深さまで突き刺さっております。しかも、衝撃力は熱に至りませんで、金属のまま地中に埋まっている。二〇〇〇年にコソボに参りましたときに、掘り出したウラン弾を見ましたところ、そのウラン弾は半分ほどにやせ細っているということが確認できました。ウランという金属は、水と接触することによって水溶性のウランとなり、地下水へ汚染として入っていくということがそのことによっても確認できるわけであります。

劣化ウラン研究会」のWEBサイト「参考人意見陳述書」

戦車に当たらなかったウラン弾は地中に深く突き刺さり、土の中の水分と反応して水溶性のウランへと変質し、地下水を汚染し、生態系を通じて循環し、水や食物を通じて胎児や乳幼児に大きな影響を与えます。

ここでは、「生態系を通じて循環し、水や食物を通じて胎児や乳幼児に大きな影響を与えます。」という部分は、要約ではなく、「胎児や乳幼児」に集約できる形で、その影響の矛先を向けている。


第2点
国会意見陳述の部分

ここにありますのが、バグダッドの計画省という建物の周辺で発見されたウラン弾であります。(パネルを示す)この上の方にあります金属の棒、これが、純粋なウラン金属、直径一センチ、長さ十センチ、重さ三百グラム程度のウラン金属です。これは十ミリほどで、撃ち出すのは三十ミリ砲ですから、アルミ合金で三十ミリのさやをつくって、その中に入れて撃ち込むわけであります。
 そして、この計画省、これはバグダッドの中心部、サダム宮殿の近くでありますが、その計画省の裏庭から、私たち取材チームがほんのわずかな時間歩き回っただけで、これだけの大量のウラン弾の破片及びウラン弾そのもの、これが発見されました。つまり、今次の戦争においては、対戦車砲としてつくられたはずのウラン弾が建物の攻撃にも使われたということになります。その前の道路などにもこれが散乱しておりました。これを子供が拾ったりすると大変危険であります。これは早急に回収する必要があります。

劣化ウラン研究会」のWEBサイト「参考人意見陳述書」

まず、バクダッド中心部のイラク計画省に向かいました。この建物は米軍が管理しており、破壊された建物の中に入ることは許可されませんでしたが、建物の周辺で多数の劣化ウラン弾を発見しました。劣化ウラン弾にとってコンクリートは紙のように柔らかいため、ウラン弾は発火せず、弾頭のまま散乱しておりました。建物の中にはさらに多量の弾頭が散乱していることが想像されます。測定すると6マイクロシーベルトほどの放射線を放出しており、環境放射線の百倍ほどの値を示しておりました。対戦車砲の砲弾が街の中で、建造物攻撃に使われたことは明らかです。子供たちの手に触れる前に、散乱するウラン弾の早急なる回収が必要です。

ここで、要約部分ではなく付加部分をとりだしてみる。
劣化ウラン弾にとってコンクリートは紙のように柔らかいため、ウラン弾は発火せず、弾頭のまま散乱しておりました。建物の中にはさらに多量の弾頭が散乱していることが想像されます。測定すると6マイクロシーベルトほどの放射線を放出しており、環境放射線の百倍ほどの値を示しておりました。対戦車砲の砲弾が街の中で、建造物攻撃に使われたことは明らかです。」
ということで、約3分の2は付加部分である。


第3点
国会意見陳述の部分

それから、その戦車の周辺の建物、これは製氷工場でありますが、この製氷工場にもたくさんの銃弾が撃ち込まれておりまして、この工場自体が汚染されている。とても工場の再開は難しいということで、私たちが行って測定をした結果、ここの工場長は頭を抱えて困り果てているという状況が起こっております。

劣化ウラン研究会」のWEBサイト「参考人意見陳述書」

バスラの南部の被弾した戦車の背後には製氷工場があり、この工場にも多数の劣化ウラン弾が打ち込まれておりました。特に製氷用の鉄製のプールの底に打ち込まれたウラン弾による貫通孔周辺からは、最大2.9マイクロシーベルトの汚染が検出され、これは環境放射線の45倍にも達するものでありました。工場再開のためには大掛かりな改修工事が必要となり、工場長は悩み苦しんでおりました。

ここでは、「特に製氷用の鉄製のプールの底に打ち込まれたウラン弾による貫通孔周辺からは、最大2.9マイクロシーベルトの汚染が検出され、これは環境放射線の45倍にも達するものでありました。」が付加されている。ここでも放射線量の数値が記述されているが、実際の国会での陳述では見当たらない。


第4点
国会意見陳述の部分

そのほか、死産、流産も非常に多くなっております。そして、先天的な機能不全というものも大変多く見られるようになっております。
 長期にわたる経済封鎖のために、医療器材、薬品、人材など絶望的に不足して、治癒率が極めて低いというのが現状であります。

劣化ウラン研究会」のWEBサイト「参考人意見陳述書」

子供たちの悪性腫瘍のうち、その約半分が白血病で、リンパ腫、神経芽細胞腫、幼児性腎腫瘍などが続いております。また、早産、死産も多く、その中には数多くの先天的機能不全、いわゆる奇形児が多く見られます。これは、広島・長崎・チェルノブイリの経験から推測される事態と一致しております。バスラでもバクダッドでもこの傾向は共通しており、長期にわたる経済封鎖のため、医療機材、薬品、人材ともに絶望的に不足しており、治癒率はきわめて低いのが現状です。

ここでの付加部分は
「子供たちの悪性腫瘍のうち、その約半分が白血病で、リンパ腫、神経芽細胞腫、幼児性腎腫瘍などが続いております。」
「これは、広島・長崎・チェルノブイリの経験から推測される事態と一致しております。バスラでもバクダッドでもこの傾向は共通しており、」の2つのパートである。
一つは「悪性腫瘍」に目を向けさせるものと、「広島・長崎・チェルノブイリ」との関連付けたものである。


第5点
ここも、実際の国会での意見陳述にはない付加の部分である。

イラクを訪れて感じたことは、市民が英米軍を解放軍とは認識しておらず、占領軍・征服者として認識しており、激しい敵意をいだいていることです。そこに日本が武力をもって参加することは、言語道断であり、後世に禍根を残すことになることでしょう。


第6点
同じく、実際の国会での意見陳述にはない付加の部分である。

イラクの人々が最も望んでいることはそのことです。もし日本が総力を挙げてイラクの子供たちの命を救うための努力をすれば、イラクのみならずイスラム諸国の人々は、日本に対する友好的な関係を続けることになるでしょう。しかし、軍隊を派遣すれば憎しみだけが残されることになります。

第5点、第6点の部分は、劣化ウランに関する意見陳述というより政治的プロパガンダに近いものだと感じる。
注)藤田氏の2つ目の発言に近い部分があるが、ニュアンス的にはどうだろうか。


以上の6点にわたり、国会の意見陳述に該当しない付加部分がある。
藤田氏の「参考人意見陳述」の体裁をとりながら、意図的に放射線の数値を書き加えたり、「悪性腫瘍」のイメージを強めたり、「広島・長崎・チェルノブイリ」とつなげたり、「市民が英米軍を解放軍とは認識しておらず、占領軍・征服者として認識しており」、「日本が総力を挙げてイラクの子供たちの命を救うための努力をすれば、イラクのみならずイスラム諸国の人々は、日本に対する友好的な関係を続けることになるでしょう。しかし、軍隊を派遣すれば憎しみだけが残されることになります。」など、政治的なメッセージを書き加えている。

これでは、「左翼的プロパガンダ」と揶揄されても仕方あるまい。さらに、国会での意見陳述という形式をかりて、その権威を高めようとしているのだろうか。さらに、これが独り歩きするならば、それが、どのようなことにつながるのだろうか。

付け加えるならば、実際の意見陳述から消えている部分もある。

因果関係についてのさまざまな議論はございますけれども、疫学的に明らかに放射能影響というものがこのバスラ周辺の子供たちに、そしてこの影響はバグダッドでも顕著に見られているわけであります。

「因果関係についてのさまざまな議論はございます」という重要な部分が抜けている。その後、斉藤鉄夫委員からの質問に対して、次のように回答している。

今度のウランの問題、これは、ウランのアルファ放射体の内部被曝と重金属であるウラニウム金属の毒性との複合的なものであろうかと思いますけれども、今のところ、これが学問的に確立した因果関係というものが認められておりません。しかし、現実にそこに子供たちがいる、疫学的な状況としては明らかに増加の傾向にあるということであれば、そこに手を打つということがまず人道的に先決問題であり、同時に因果関係の研究を進めていけばよろしいわけであります。