−化身−クリスマス・テロル 佐藤友哉 

熊谷尚人の言葉

自分だけの領域だよ。そしてここは正に理想の場所だ。何に影響を受けることも無く、ずっと物語を書いていられる。ここは僕を理解しない連中の意識よりも外側に存在しているのさ

小林冬子の言葉

トンネルから穴蔵に移動したんじゃ、情況は悪くなっていると思いますけど

トンネルは行き止まりでなく、そこは通り道だ。穴蔵という冬子の表現は、そこが行き止まりの袋小路の奥に迷い込んだ尚人をあらわしたものだろうか。いや、迷い込んだのでなく、自らが望んだのだろう。冬子の視界から尚人が消えた時、尚人は自分の真実を感知した。
尚人は、世界の無関心の中に生活することを選んだ。それは、誰にも邪魔されないが、だれにも関心をはらわれない。熊谷尚人は佐藤友哉の分身であり化身なのだろう。だから、冬子に「悪くなっていると思いますけど」と情況を説明させた。
多分、北海道から東京に出てきたことが、トンネルから穴蔵への移動ということだろう。東京は意識の外側に生活する分には安楽かもしれないが・・・。